サンタクロース
以下、ヨッシーの創作フィクションです。
サンタクロース

2011年3月11日午後、 東京の会社から東北地方へ出張していたひとりの
サラリーマンが、次の出張先へ向かうために車で宮城県のある町の湾を移動
していた。そして、この日の地震と津波に遭遇してしまったのである。
彼は自ら必死に避難中に偶然近くに居た軽自動車の母娘を助けるため、その
尊い命を犠牲にしてしまった。
彼も埼玉に家族を持ち、ふたりの子供を授かり、幸せな家庭を築き上げていた。
救助したその母子は丁度、彼の妻子と同年代であり、きっと極限の状態であっても
他人事ではやり過ごせなかったのであろう。
迫り来る濁流に流されて行く軽自動車を見過ごせず、彼はその濁流に飛び込み
車の窓ガラスから無理矢理躰を軽自動車にねじ込んだ。
子供を屋根に乗せ、母親を押し出した後侵入してきた大量の水に彼はとうとう
力尽きてしまった。そのまま車は流されたが、幸いにも他の漂流物に押しつぶされず
母と娘は助かった。
あれから9ヶ月が過ぎ、実質的な被害の少なかった東京などはクリスマスに街が
浮かれているが、この夏で6才になった彼の娘、麻奈は元気がなかった。
「ママ、パパが死んじゃったから、もうサンタさんからのプレゼントはもらえない
んでしょ」
「そんな事ないわよ、マナが良い子でいてくれたらきっとサンタクロースがマナの
欲しいものを叶えてくれるわよ」
「ウソだもん、マナはサンタさんがパパだったって・・・もう知ってるんだから
それにマナ・・・お人形やぬいぐるみなんかいらない・・・もう一度パパと
お話しがしたいよ」

街にイルミネーションの明かりが灯る頃よりずっと麻奈はこんな具合であった。
彼(慎司)はあの日、遠く薄れて行く意識の中で妻と娘の笑顔を思った。
そして「もうその笑顔を見ることも、話す事もこれで出来なくなってしまった」
とも。妻と娘の名前を心の中で叫び、それきり深い闇の中に意識は沈んでいった。
妻であった佳織は夫の慎司が津波に呑まれた場所へは未だ行ってなかった。
その場所を訪れるという事は夫の亡くなった現実を受け入れなくてはならない。
だが、彼女も又、その現実を受け入れられずに居るのである。
そんな12月の上旬に宮城から一通の封書が届いた。
封を切るとクリスマスカードとともに手紙が入っていた。
差出人は倉林明美と愛理だった。そう、夫が助けた親娘である。
彼女たちは夫に救われたが皮肉にも彼女の夫も又、あの津波の犠牲になっている
事は佳織も知っていた。明美の夫は地元の消防団に所属し、津波の避難を呼び掛けて
海岸沿いを消防車で走っていて津波にさらわれてしまった。
夏に佳織の元に救助の礼に訪れた時にその話を聞いた。
「大切な貴方の旦那様に救われたこの命ですが、夫の犠牲を知った時、なんで自分たちは
助かってしまったのだろう。夫が帰らぬのなら私も娘の命も他人様の命を犠牲にしてまで
救われる必要があったのだろうか?避難所の生活で今もその事ばかりを考えています」
と。
手紙には秋に避難所から仮設住宅に移れた事。そして今は救われた自分たち親娘の命の
尊さを母から諭され、又、その為に犠牲になった人々の為にも強く生き抜かねばならない
気持ちが到頭と綴ってあった。そして是非佳織の夫、慎司が自らの命を投げ出して自分たちを
救ってくれた現場を訪れて欲しい事と、クリスマスカードはその英雄を偲びささやかな
クリスマスの会を催す事への招待状であった。

to be continued 次回へと続きます
サンタクロース

2011年3月11日午後、 東京の会社から東北地方へ出張していたひとりの
サラリーマンが、次の出張先へ向かうために車で宮城県のある町の湾を移動
していた。そして、この日の地震と津波に遭遇してしまったのである。
彼は自ら必死に避難中に偶然近くに居た軽自動車の母娘を助けるため、その
尊い命を犠牲にしてしまった。
彼も埼玉に家族を持ち、ふたりの子供を授かり、幸せな家庭を築き上げていた。
救助したその母子は丁度、彼の妻子と同年代であり、きっと極限の状態であっても
他人事ではやり過ごせなかったのであろう。
迫り来る濁流に流されて行く軽自動車を見過ごせず、彼はその濁流に飛び込み
車の窓ガラスから無理矢理躰を軽自動車にねじ込んだ。
子供を屋根に乗せ、母親を押し出した後侵入してきた大量の水に彼はとうとう
力尽きてしまった。そのまま車は流されたが、幸いにも他の漂流物に押しつぶされず
母と娘は助かった。
あれから9ヶ月が過ぎ、実質的な被害の少なかった東京などはクリスマスに街が
浮かれているが、この夏で6才になった彼の娘、麻奈は元気がなかった。
「ママ、パパが死んじゃったから、もうサンタさんからのプレゼントはもらえない
んでしょ」
「そんな事ないわよ、マナが良い子でいてくれたらきっとサンタクロースがマナの
欲しいものを叶えてくれるわよ」
「ウソだもん、マナはサンタさんがパパだったって・・・もう知ってるんだから
それにマナ・・・お人形やぬいぐるみなんかいらない・・・もう一度パパと
お話しがしたいよ」

街にイルミネーションの明かりが灯る頃よりずっと麻奈はこんな具合であった。
彼(慎司)はあの日、遠く薄れて行く意識の中で妻と娘の笑顔を思った。
そして「もうその笑顔を見ることも、話す事もこれで出来なくなってしまった」
とも。妻と娘の名前を心の中で叫び、それきり深い闇の中に意識は沈んでいった。
妻であった佳織は夫の慎司が津波に呑まれた場所へは未だ行ってなかった。
その場所を訪れるという事は夫の亡くなった現実を受け入れなくてはならない。
だが、彼女も又、その現実を受け入れられずに居るのである。
そんな12月の上旬に宮城から一通の封書が届いた。
封を切るとクリスマスカードとともに手紙が入っていた。
差出人は倉林明美と愛理だった。そう、夫が助けた親娘である。
彼女たちは夫に救われたが皮肉にも彼女の夫も又、あの津波の犠牲になっている
事は佳織も知っていた。明美の夫は地元の消防団に所属し、津波の避難を呼び掛けて
海岸沿いを消防車で走っていて津波にさらわれてしまった。
夏に佳織の元に救助の礼に訪れた時にその話を聞いた。
「大切な貴方の旦那様に救われたこの命ですが、夫の犠牲を知った時、なんで自分たちは
助かってしまったのだろう。夫が帰らぬのなら私も娘の命も他人様の命を犠牲にしてまで
救われる必要があったのだろうか?避難所の生活で今もその事ばかりを考えています」
と。
手紙には秋に避難所から仮設住宅に移れた事。そして今は救われた自分たち親娘の命の
尊さを母から諭され、又、その為に犠牲になった人々の為にも強く生き抜かねばならない
気持ちが到頭と綴ってあった。そして是非佳織の夫、慎司が自らの命を投げ出して自分たちを
救ってくれた現場を訪れて欲しい事と、クリスマスカードはその英雄を偲びささやかな
クリスマスの会を催す事への招待状であった。

to be continued 次回へと続きます
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