続・サンタクロース
はじめに、昨日の地名表示に誤りがございましたのでお詫び致します。
本文(12/11)は既に訂正済みです。
サンタクロース 作者 ヨッシー
はじめてご覧になる方は昨日(12月11日)の初回を先にお読み下さい。

佳織が麻奈と3才前の弟ショータを連れて東北の新幹線の駅に降り立ったのは、正午を
少し回った時刻だった。改札を済ませると正面に明美親娘が出迎えに来てくれていた。
明美は手を振って会釈をすると
「こんな遠くまで来ていただけて本当に嬉しいです」
佳織を真っ直ぐに見つめて笑顔を作ったが、やがて直ぐに大粒の涙をこぼして唇をわななかせた。
「何時かは・・・慎司の最後の場所を見届けなくてはと、思ってたのですが、その決心が
なかなか付きませんでした。でも、明美さんの招待状でその決心が付きました。
ご迷惑でしょうが宜しくお願いします」
明美は黙って両手を差し伸べ、佳織の手を強く握った。その手はヒンヤリし、見るとアカギレが
できている。佳織は黙って手を握り返した。やがて彼女も大粒の涙をこぼし、ふたりは強く抱擁
した。
ワゴン車には明美の夫・浩志の友人であった雄一が運転手として来ていた。
浩志の所属した消防団の団員でもあるという。子供たちも直ぐに仲良しになった。
車中で明美があの日の事を話してくれた。
「わたしを必死に車の窓から押し出してくれたわ。今度はわたしが慎司さんを車の屋根に
引っ張りあげようとして手を差し伸べたの。その時はもう水がハンドルの上まできていて
あっという間に天井まで水に浸かってしまった。でも、ようやく捉えた彼の手を死んでも
離すもんかと思ったわ。最初は握り返す彼の手にも力が感じられた。それが徐々に弱くなって
それでもわたしは手を離したくなかった。だけど・・・・・
最後に彼はもう一度わたしの手を強く握って、そしてもう片方の手でわたしの手を振り
ほどいたの。彼が最後に強くわたしの手を握ったとき、それはきっと貴方や麻奈ちゃん、
ショータ君への思いが込められていたんだと最近わかりました」

車は一時間程走り、やがてリアス式の海岸沿いの湾を望める高台に出て、そのまま坂道を下った。
あれから9ヶ月も経ったのに未だ、震災や津波による瓦礫の山が道路沿いのあちこちに山積み
されている。途中で生花を買いその場所に着いたのは3時頃だろうか。
「ココです。津波にあったのはもっと海よりなんですが、こんな所まで流されてしまいました」
花が既に生けてあった。
その花の隣に花束を置くと、明美の用意してくれたお線香に火を着けて佳織は両手を合わせた。
「麻奈、ショータ。あなた達もパパにご挨拶なさい。ここからパパは天国へ行ったのよ。
ほら、きっとあの海の向こうで麻奈やショータの事を見てくれているわ」
海は穏やかだった。やや西日になりかけた太陽の日を浴びて暖かい色をしている。
この海がどうしてあんな事になり、慎司をはじめ大勢の生命を拐って行ったのか?
「ママ、パパに大きな声で話しかけたら聞こえるかなぁ?」
麻奈が言った。
「そうね、あんなに麻奈やショータの事が可愛くて仕方なかったパパだからきっと
聞いてるわよ」
「じゃマナ、パパとお話しする」
「うん!!みんなでパパに聞こえるように大きな声で呼びかけよ」
「パパ~!!聞こえる~ マナだよ~ 天国に行っちゃってもマナのことわすれないでねえ~」
「慎司さ~ん ホラふたりともこんなに大きくなったよ~ ママのことも忘れたら承知しないよ~」
その夜、避難所として使われていた近所の公会堂で自治会や消防団の主宰するクリスマス会が
催された。
明美の事を知る住民が次々と佳織親子の前に挨拶に来ては、慎司の勇気と命懸けの行為を称え
深々と礼を言った。
明美の母などは両手をついて頭を床にこすり、夫が犠牲になった事を詫びた。
トナカイやサンタにコスプレをした消防団員達が子供達にプレゼントを配ったりしている。
昼間の海で叫んだあと、結局みんなで大泣きになってしまった。しかし、今は麻奈もケロっとして
サンタの衣装を着た雄一をトナカイに跨り追いかけては大はしゃぎしている。
シャンパンで少し酔いもまわったが明美と意気投合した佳織は、用意してくれた宿を辞退し
明美の仮設住宅に泊まる事にした。
「狭いけど、大勢でくっつかって寝れば温かいよね。夜中に来るサンタさんに踏まれないよう
にねえ」
明美と佳織は子供達を寝かし付けた。
その夜、麻奈は不思議な夢をみた。
真っ暗な夜の道にサンタクロースがポツンと立っていた。
赤いズボンにマントと帽子、顔にヒゲをはやしてるが大好きなパパだと直ぐにわかった。
「パパなにしてるの?マナのおウチは向こうだよ。ショータやママも待ってるから早く帰ろ」
パパサンタはニッコリしながらチョット困った顔をした。やがて
「パパは神様から本当のサンタクロースにされちゃったから、これから世界中の子供たちに
このクリスマスプレゼントを配達しなくちゃいけないんだよ」
「ええ~そんなのヤダ じゃあウチはどうすんのよ」
「う~ん マナはもう大きくなって強くなったから少しぐらい我慢できるようになっただろ
だからママのお手伝いもいっぱい出来るし、ショータの面倒だって見れるじゃん」
「じゃぁ もうパパには会えないの?」
麻奈は胸が押しつぶされるくらいに悲しかった。
「そんなことはないさ!! ホラこうして毎年クリスマスの頃には一番にマナのところに
来るからさ。それに君がイイ子にしてたらお正月やマナの誕生日にだって会えるように
神様が約束してくれたよ」
パパサンタクロースはそばに来るとギュッとマナの躰を抱きしめてくれた。
マナはサンタの胸に顔を埋めた。あの頃は大嫌いだったタバコの臭いがちょっとするパパの
匂いがした。
「パパサンタさん、約束だよ!!マナ、イイ子になるから絶対にまた会いに来てね」
「ウン、パパとマナの約束だ。じゃあママやショータを頼むぞ」
それからサンタが空を見上げるとシャン・シャン・シャン・・・鈴の音と供に何処からともなく
トナカイの空飛ぶソリが現われた。パパサンタはそのソリに乗ると見えなくなるまでマナに手を振り
「メリークリスマス」と言いながら夜空の向こうへ行ってしまった。

終わり
本文(12/11)は既に訂正済みです。
サンタクロース 作者 ヨッシー
はじめてご覧になる方は昨日(12月11日)の初回を先にお読み下さい。

佳織が麻奈と3才前の弟ショータを連れて東北の新幹線の駅に降り立ったのは、正午を
少し回った時刻だった。改札を済ませると正面に明美親娘が出迎えに来てくれていた。
明美は手を振って会釈をすると
「こんな遠くまで来ていただけて本当に嬉しいです」
佳織を真っ直ぐに見つめて笑顔を作ったが、やがて直ぐに大粒の涙をこぼして唇をわななかせた。
「何時かは・・・慎司の最後の場所を見届けなくてはと、思ってたのですが、その決心が
なかなか付きませんでした。でも、明美さんの招待状でその決心が付きました。
ご迷惑でしょうが宜しくお願いします」
明美は黙って両手を差し伸べ、佳織の手を強く握った。その手はヒンヤリし、見るとアカギレが
できている。佳織は黙って手を握り返した。やがて彼女も大粒の涙をこぼし、ふたりは強く抱擁
した。
ワゴン車には明美の夫・浩志の友人であった雄一が運転手として来ていた。
浩志の所属した消防団の団員でもあるという。子供たちも直ぐに仲良しになった。
車中で明美があの日の事を話してくれた。
「わたしを必死に車の窓から押し出してくれたわ。今度はわたしが慎司さんを車の屋根に
引っ張りあげようとして手を差し伸べたの。その時はもう水がハンドルの上まできていて
あっという間に天井まで水に浸かってしまった。でも、ようやく捉えた彼の手を死んでも
離すもんかと思ったわ。最初は握り返す彼の手にも力が感じられた。それが徐々に弱くなって
それでもわたしは手を離したくなかった。だけど・・・・・
最後に彼はもう一度わたしの手を強く握って、そしてもう片方の手でわたしの手を振り
ほどいたの。彼が最後に強くわたしの手を握ったとき、それはきっと貴方や麻奈ちゃん、
ショータ君への思いが込められていたんだと最近わかりました」

車は一時間程走り、やがてリアス式の海岸沿いの湾を望める高台に出て、そのまま坂道を下った。
あれから9ヶ月も経ったのに未だ、震災や津波による瓦礫の山が道路沿いのあちこちに山積み
されている。途中で生花を買いその場所に着いたのは3時頃だろうか。
「ココです。津波にあったのはもっと海よりなんですが、こんな所まで流されてしまいました」
花が既に生けてあった。
その花の隣に花束を置くと、明美の用意してくれたお線香に火を着けて佳織は両手を合わせた。
「麻奈、ショータ。あなた達もパパにご挨拶なさい。ここからパパは天国へ行ったのよ。
ほら、きっとあの海の向こうで麻奈やショータの事を見てくれているわ」
海は穏やかだった。やや西日になりかけた太陽の日を浴びて暖かい色をしている。
この海がどうしてあんな事になり、慎司をはじめ大勢の生命を拐って行ったのか?
「ママ、パパに大きな声で話しかけたら聞こえるかなぁ?」
麻奈が言った。
「そうね、あんなに麻奈やショータの事が可愛くて仕方なかったパパだからきっと
聞いてるわよ」
「じゃマナ、パパとお話しする」
「うん!!みんなでパパに聞こえるように大きな声で呼びかけよ」
「パパ~!!聞こえる~ マナだよ~ 天国に行っちゃってもマナのことわすれないでねえ~」
「慎司さ~ん ホラふたりともこんなに大きくなったよ~ ママのことも忘れたら承知しないよ~」
その夜、避難所として使われていた近所の公会堂で自治会や消防団の主宰するクリスマス会が
催された。
明美の事を知る住民が次々と佳織親子の前に挨拶に来ては、慎司の勇気と命懸けの行為を称え
深々と礼を言った。
明美の母などは両手をついて頭を床にこすり、夫が犠牲になった事を詫びた。
トナカイやサンタにコスプレをした消防団員達が子供達にプレゼントを配ったりしている。
昼間の海で叫んだあと、結局みんなで大泣きになってしまった。しかし、今は麻奈もケロっとして
サンタの衣装を着た雄一をトナカイに跨り追いかけては大はしゃぎしている。
シャンパンで少し酔いもまわったが明美と意気投合した佳織は、用意してくれた宿を辞退し
明美の仮設住宅に泊まる事にした。
「狭いけど、大勢でくっつかって寝れば温かいよね。夜中に来るサンタさんに踏まれないよう
にねえ」
明美と佳織は子供達を寝かし付けた。
その夜、麻奈は不思議な夢をみた。
真っ暗な夜の道にサンタクロースがポツンと立っていた。
赤いズボンにマントと帽子、顔にヒゲをはやしてるが大好きなパパだと直ぐにわかった。
「パパなにしてるの?マナのおウチは向こうだよ。ショータやママも待ってるから早く帰ろ」
パパサンタはニッコリしながらチョット困った顔をした。やがて
「パパは神様から本当のサンタクロースにされちゃったから、これから世界中の子供たちに
このクリスマスプレゼントを配達しなくちゃいけないんだよ」
「ええ~そんなのヤダ じゃあウチはどうすんのよ」
「う~ん マナはもう大きくなって強くなったから少しぐらい我慢できるようになっただろ
だからママのお手伝いもいっぱい出来るし、ショータの面倒だって見れるじゃん」
「じゃぁ もうパパには会えないの?」
麻奈は胸が押しつぶされるくらいに悲しかった。
「そんなことはないさ!! ホラこうして毎年クリスマスの頃には一番にマナのところに
来るからさ。それに君がイイ子にしてたらお正月やマナの誕生日にだって会えるように
神様が約束してくれたよ」
パパサンタクロースはそばに来るとギュッとマナの躰を抱きしめてくれた。
マナはサンタの胸に顔を埋めた。あの頃は大嫌いだったタバコの臭いがちょっとするパパの
匂いがした。
「パパサンタさん、約束だよ!!マナ、イイ子になるから絶対にまた会いに来てね」
「ウン、パパとマナの約束だ。じゃあママやショータを頼むぞ」
それからサンタが空を見上げるとシャン・シャン・シャン・・・鈴の音と供に何処からともなく
トナカイの空飛ぶソリが現われた。パパサンタはそのソリに乗ると見えなくなるまでマナに手を振り
「メリークリスマス」と言いながら夜空の向こうへ行ってしまった。

終わり
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コメントの投稿
初めてコメントします。
あの未曽有の震災から9ヶ月がたったのですね。
ブログを拝見して改めて認識しました。
このストーリーはヨッシーさん創作のフィクションですか?
サンタクロースになったお父さんの話しに素直に感動して泣けました。
実際にこの様な辛い体験をされた方がきっと大勢いるのだろうと犠牲になった人や今も不便な暮らし
を余儀なくされている方へ心からお見舞い申し上げます。
これからもブログ楽しみにしてます。
あの未曽有の震災から9ヶ月がたったのですね。
ブログを拝見して改めて認識しました。
このストーリーはヨッシーさん創作のフィクションですか?
サンタクロースになったお父さんの話しに素直に感動して泣けました。
実際にこの様な辛い体験をされた方がきっと大勢いるのだろうと犠牲になった人や今も不便な暮らし
を余儀なくされている方へ心からお見舞い申し上げます。
これからもブログ楽しみにしてます。
No title
今年のクリスマスは複雑な思いで迎える人が大勢いるのでしょうね。
それでも子供たちにとっては年に一度の待ちに待ったクリスマス
マナちゃんのパパみたいにサンタさんになって本当に逢いに来てくれるといいね。
私の弟は突然の病で二人の幼い子供をおいて天国へ旅立ってしまいました。その年のクリスマスに幼い姪は「おとうさん、クリスマスに
帰ってくればいいのにね。」って言った言葉を思い出して目頭が熱くなりました
それでも子供たちにとっては年に一度の待ちに待ったクリスマス
マナちゃんのパパみたいにサンタさんになって本当に逢いに来てくれるといいね。

私の弟は突然の病で二人の幼い子供をおいて天国へ旅立ってしまいました。その年のクリスマスに幼い姪は「おとうさん、クリスマスに
帰ってくればいいのにね。」って言った言葉を思い出して目頭が熱くなりました

続コメント
その姪たちも今は立派に成人し社会人となりました。
残された母子三人どうなるかその時は本当に心配しましたが、
義妹ががんばって二人の子供たちを育てあげてくれました。
ご苦労さもと労いの言葉をかけてあげなくてはね
残された母子三人どうなるかその時は本当に心配しましたが、
義妹ががんばって二人の子供たちを育てあげてくれました。
ご苦労さもと労いの言葉をかけてあげなくてはね

アパッチ様
コメントをありがとうございます。
夜勤明けの朝風呂に入浴中、突然ヒラメイテ
速攻で書き上げました。
読み返すとおかしな処があったりして、気付いた部分は校正してます。
チョット悲しいお話ですが、それを乗り越える人間の芯の強さがテーマです。
素直に感動していただけて大変嬉しいです。
夜勤明けの朝風呂に入浴中、突然ヒラメイテ
速攻で書き上げました。
読み返すとおかしな処があったりして、気付いた部分は校正してます。
チョット悲しいお話ですが、それを乗り越える人間の芯の強さがテーマです。
素直に感動していただけて大変嬉しいです。
buko-sakado様
アパッチさんのコメントでも書きましたが
不幸にも大切な家族を残して先に旅立ってしまわれた方。
考えてみれば生きとし生けるものは、誰しもそうなるのですよね。
自分もそうだし、例外はありませんものね。
でも残された家族はその悲しみを乗り越えて生きて行くしかない。
それはbukoさんがそうした様に、周囲の応援に後押しされての
ことでもあると思います。
そしてそんな周囲を見て育った姪子さん、きっと真っ直ぐな良い子に
なったと思います。
不幸にも大切な家族を残して先に旅立ってしまわれた方。
考えてみれば生きとし生けるものは、誰しもそうなるのですよね。
自分もそうだし、例外はありませんものね。
でも残された家族はその悲しみを乗り越えて生きて行くしかない。
それはbukoさんがそうした様に、周囲の応援に後押しされての
ことでもあると思います。
そしてそんな周囲を見て育った姪子さん、きっと真っ直ぐな良い子に
なったと思います。
No title
じわん・・・・。
正直、カンドーしました♪
赤い鼻のトナカイが
みんなを連れてきてくれますよーに!
正直、カンドーしました♪
赤い鼻のトナカイが
みんなを連れてきてくれますよーに!
No title
花ちゃんおはようございます。
そちらはそろそろ雪景色ですか。
なまはげのサンタさんがいたら子供は喜ぶかな?
でも夜中に「ワリゴ(悪い子)はいねが~」って入ってくると
「ちょっとサンタさんウザイよ、今夜は良い子にしてるから
サンタさん来たんだろ」
って最近の小学生くらいなら言いそうですね(笑)
そちらはそろそろ雪景色ですか。
なまはげのサンタさんがいたら子供は喜ぶかな?
でも夜中に「ワリゴ(悪い子)はいねが~」って入ってくると
「ちょっとサンタさんウザイよ、今夜は良い子にしてるから
サンタさん来たんだろ」
って最近の小学生くらいなら言いそうですね(笑)